羊毛の歴史

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羊毛の歴史

羊と人間との歴史は古く、紀元前7000年にはメソポタミア地域(イラク、パレスチナ、レバノン周辺)で羊が家畜として飼育されている痕跡が発見されています。

今日に至る羊の歴史を辿って行く中で、キーワードとなるものがいくつかあります。
キーワードごとに内容を見てみましょう。

≪自給自足≫
紀元前7000年から現在に至るまで、なぜ羊は人間とともにいるのでしょうか?

その理由の一つとして、羊がいるだけで衣食住において自給自足することが可能なことが挙げられます。

毛刈りをしても半永久的に生産される羊毛により、人間の体を守る服や家づくり(モンゴルのゲルなどの居住物は羊毛をフェルト化したものが使われます)に利用することができます。排泄物は畑の肥やしになり、雌羊の乳からチーズなどの発酵品を作り、一生を終えた羊からは皮と肉をもらうことが出来ます。

モンゴルのゲル

このように恵みをもたらしてくれる羊を繁殖し、現在に至るまで人間は彼らを必要としてきました。

※羊毛の機能については、こちらの記事にも記載しています。

羊毛の特徴① 構造と機能 - ‐ヨーロッパの手仕事‐グレムティッド

【羊毛の特徴① 構造と機能】羊毛の構造や、機能についてまとめました。

≪品種改良≫
現在、羊の品種は世界で1,000種以上にも及ぶといわれています。そのほとんどは古代からの野生種(原種)の羊を人間が必要とする形に品種改良した結果の産物といわれています。

紀元前100年ごろには、ローマ帝国の拡大によってヨーロッパ全域に牧羊と、毛織物が広まるようになりました。

良質な羊毛の織物は、各地での商取引の材料に発展していきます。特に、どんな色にも染めやすい白い色で、薄く軽い柔らかい布が作れる細く長い毛を求めて、そのような傾向を持つ羊同士が繰り返し交配されてきました。

原種の1つにソアイという品種があります。このソアイが、このような品種改良が重ねられた結果、西暦1300年頃に白く、極細の毛が特徴のメリノ種が確立されました。

また、他の動物と同じように、季節によって毛が自然と生え変わっていた羊の毛ですが、大型のハサミが開発され一度に毛刈りが出来るようになると、毛刈りしないと換毛せずにずっと毛が伸び続ける種に変化していきました。

しかしながら、現在でも品種改良が盛んでなかった地域などでは、野生種の性質を持っている品種も多数存在しています。

特徴 野生種 品種改良種
毛の構造

別記事「羊毛の特徴①構造と機能」参照

雨・風がしのぎやすいように、ヘアー・ケンプが発達している 細い毛が密集するように、ヘアー・ケンプの量を減らして、ウールの量を多くしている
毛の生え変わり 生え変わる 生え変わらない
毛の色 茶・グレー・黒などの有色
尾部・臀部の脂肪量
※食料の乏しい冬季や乾燥地帯での生存を助ける
通常 野生種より多い

品種改良の原種とされる羊種 ※()内は原産国
アルガリ(中央アジア)、アジアムフロン(中近東)、ウリアル(インド)、ヨーロッパムフロン(地中海)

≪羊大国オーストラリアとニュージーランド≫
羊の生産数が多いことで知られる2国ですが、その歴史は西暦1789年に遡ります。

もともと夏は北部、冬は南部に移動させ、筋肉を引き締め脚力をつけたメリノ種を育てていたスペインでは、近隣国への贈り物以外の目的でメリノ羊を国外に持ち出すことを禁止していました。

そんなスペインからメリノ羊を贈られたオランダ王室は、植民地だった南アフリカのケープにその羊たちを育てるため輸送させます。

それとは別に、スペイン・メリノを贈られても自国の環境に合わず飼育に苦労していた英国では、メリノ羊に適した乾燥した内陸を持つ英国領オーストラリアでの牧羊に目をつけ、オランダ王室の羊をケープ経由で手に入れ、オーストラリアへ送りました。

もともと脚力があり体が頑丈にできているメリノは、オーストラリアの広大な土地での飼育に功をなし、本国での毛織物産業の人気も相まって200年の間にオーストラリアは1億頭を育てるメリノ大国に発展しました。

一方、ニュージーランドでは、西暦1834年に、オーストラリアからメリノ羊が持ち込まれ飼育が始まりました。また、多雨多湿の丘陵地であるニュージーランドは、同じ気候の英国ロムニー・マーシュ地方が原産のロムニー羊も持ち込まれ、現在ではロムニー種(ロムニーの交雑種も含む)がニュージーランドの集毛量の70%を占めています。

≪独自のウール文化を持つ英国≫
英国は島国ということもあり、独自の羊種を持つ国で、その影響が今日にも残っています。

紀元前から様々な羊種が北方系の民族などから持ち込まれてきました。

それと相まって、英国は西側は雨量が多いのに、東側では雨量が少なく霧が深いなど、各地の変化に富んだ気候により、他国ではみられない多様な羊の品種改良が行なわれてきました。そのため現在、英国原産の羊は60種以上にのぼるといわれています。

また、羊種の多様さだけでなく、毛織物産業でも独特の歴史を持っています。西暦1337年には100年戦争にて原毛の輸出と、外国産衣料の輸入が禁止され、フランドルからきた織物職人、数千人を手厚く庇護したことで、高水準の毛織物産業が国内で確立されます。これにより、国内でのウールの需要が増し、ウール大国へと変貌を遂げるのです。

18世紀には織物の織スピードを上げる「飛杼(とびひ)」の発明や、複数の糸を紡ぐことができる「ジェニー紡績機」の登場により、毛織物の生産効率が飛躍的に上がり、ウール人気に拍車がかかります。この人気を支えたのが、上述のオーストラリアとニュージーランドでの羊毛の大量生産になります。

手紡ぎで使用する羊毛は、これまで見てきたように、ウール大国のオーストラリア・ニュージーランド・英国産のものがほとんどになっています。

【参考資料・サイト】
「羊の本」著:本出ますみ 出版:スピナッツ出版 2018年
「羊飼いの暮らし」著:ジェイムズ・リーバンクス 訳:濱野大道 出版:早川書房 2018年(文庫本版)
 Wikipedia「ヒツジ」

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